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情報探索行動における制約の効果

藤川 和也(2012年度修了)

今日,人々は日常の中でインターネットを利用した問題解決を自然に行なっている.中でもウェプ検索システムを利用した調べ事を問題解決の手法として利用することが少なくはない.検索技術の発展により,検索対象となるメディア,言語,検索スビードなどの制約が徐々に減少してきた.また過去には有料であった検索サービスは今では無料が一般的となっている.このように検索における制約が減少することは良いこととして捉えられるが,しかし,制約の存在が必ずしも人間にとってとって悪いものであるとは言えない.過去には制約や制限により人間のタスクパフォーマンスを上げる研究がなされてきたまた,タスクに制約の要素を取り入れることは,ゲーム性を取り入れる最も一般的な手法であり,それにより従事者の集中力や注意力を向上させる試みもなされてきた.しかし,これらの研究は情報検索の分野ではあまり行われてこなかった.

本研究では,「制約」を情報検索において人間のタスクパフォーマンスを向上させるための外的要因として積極的に利用することを考えた.情報検索行動において「制約」を設けることにより人間の注意力が向上し,人間の行動,成果に影響が出るという仮説を立て,その検証を行うために 2つの被験者実験を行った. 1つ目の実験では,ウェブ検索システムに 1)時間制限, 2)時間制限+クエリ発行回数制限, 3)時間制限+全文閲覧回数制限の 3つの制約を設け,各制約のもとでの被験者の情報検索行動を観察し,収集したデータを分析した. 2つ目の実験では,情報検索行動におけるクエリ生成、文書クリック、適合性判定、ページ移動などのアクションの間隔を「戦略性」の一表現と捉え,これが複数回のタスクを行う中でどのように変化していくか,そして制約の有無によってどのような違いが出るかを検証した.

実験1の結果,制約によりクエリ生成や検索結果の閲覧に対しての注意力を向上させることがわかり, 2)時間制限+クエリ発行回数制限が被験者の意識,行動,成果へ特に強い影響を与え,それはクエリに関わる行動以外にも及ぶことがわかった.また,リソースの消費傾向の分析を行い,制約がある場合は行動の間隔が短くなることや,消費傾向が成績の良いセッションのそれに近づくことがわかった.この結果を受け,タスクを複数回こなすうちに起こる「戦略性」の変化が制約の有無により差が出るという仮説を立て,実験 2を行った。結果としては、制約の有無により「戦略性」の発展や変化に違いがあらわれることがわかった.

本研究により,制約が情報検索行動を行う人間の意識や行動,成果に影響を与えることがわかった。また,その影響は検索行動のプロセスにも現れることがわかった.これらの知見を情報システムの改善に応用したり,教育の現場での寄与に役立てることや,ユーザの情報検索行動の理解に役立つことか期待される.


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