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概念間の心理的差異性に着目した双連的思考能力の計測手法

志賀 奏介(2014年度卒)

双連的思考能力とは、一見何も関係のない二つの物事の間に関連性を見つけることのできる能力のことである(Koestler, 1964)。例えば、Olfa社の折り刃式カッターは「割れたガラス」と「板チョコレート」という一見何も関係のない概念を合成させて生み出されている(岡田, 2005)。このように、現代社会において、企業家や研究者など双連的思考能力を用いて革新的な問題解決を求められる場面は数多く存在している。先行研究としては、双連的思考能力を回顧的に計測した研究(Jabri, 1988)(Koら, 2002)が発表されているが、それは能力の自己評価を基にしている。また、双連的思考能力を創造性の一部として見ると、連想に着目して創造性を計測したテストは存在している(久米, 1988)が、双連的思考能力に焦点を当てた尺度ではなかった。そこで、本研究では双連的思考能力の客観的な尺度を作成することで人の発想能力や問題解決能力を評価する際の指標として活用することを目的とした。

本研究では双連的思考能力を計測するための尺度を概念間の関係を調査した論文(Shobenら, 1997)を基に考案した。尺度を作成する手順は以下の通りである。まず、小学校の学習基本語彙約1400語を日本語WordNet に当てはめ、日本語WordNet 上に存在する語彙の全ペア間の距離を計測した。そして距離の遠い語のペアから近い語のペアまでを 100 問程度抽出した。最後に、この語のペアに対して、先行研究を基に「性質」、「文脈」、「因果関係」の三側面から実験参加者に心理的差異性を問うことで双連的思考能力の計測を試みた。また、Jabri が作成した双連的思考能力の質問紙の得点との相関をみることによって本研究で作成した尺度の信頼性を検証した。本実験の参加者は筑波大学の知識情報・図書館学類と社会工学類の学生計30名であった。

実験の結果、「作成した尺度の心理的差異性の合計点とJabriの双連的思考能力の質問紙調査の点数の間に相関関係がある」という仮説を支持する傾向が得られた。また、「作成した尺度の性質の合計点とJabriの双連的思考能力の質問紙調査の点数の間に相関関係がある」とする仮説も支持する傾向が得られた。また、「自己評価による高双連的思考能力群と低双連的思考能力群の性質の平均点には差がある」とする仮説に関しても支持するデータを得ることが出来た。

本研究では、自己評価に依存せず、一般的な人でも利用できる上、再利用性の高い双連的思考能力を計測する新しい尺度を提案した。また、その内部では高双連的思考能力群と低双連的思考能力群で性質が最も有用な要素であることが示唆された。 今後は、双連的思考能力が高いと予想される研究者などに調査を行い、尺度の有効性を高めていきたい。また、双連的思考能力には心理的差異性の他にも様々な要素が関わっていると思われるため、どういう要素がどのように関わっているのかを解明する必要がある。


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