話題の属性と伝達方法が話の変容に与える影響
羽畑 健太郎(2015年度卒)
人と人の間を情報が伝達していくとき、意図せずに内容が変化してしまうことがあり、これらはデマや噂という形で社会に害を及ぼすことがある。
このような例は、「銀行は銀行強盗があるから危ない」という話が人から人に伝わるうちに「銀行の経営が危ない」という話に変化し、短期間に約20億円が引き出された豊川信用金庫事件などに見られ、大きな混乱や実害を引き起こす。このような事態を未然に防ぐために情報の変容メカニズムをより良く理解し、変容を抑制する研究が必要である。
噂の伝達や変化に関する先行研究では、噂が流れる量はその話題の重要性や曖昧さと比例していること、噂の中で発生する話の変容は「平均化」「同化」「強調」の3つに大別できること、その話の機能が噂の伝達のされやすさに影響を及ぼすことなどが明らかになっている。しかし、話が伝達される際、その話の内容や伝達方法などの要素が話の変容に与える影響については明らかになっていない。
本研究では話の内容や伝達方法と伝達される際に発生する話の変容の関連性を調べた。先行研究では「不安喚起」や「面白さ」「重要性」といった、聞く人にとってプラスまたはマイナスの印象を与えるものに分類できる要素が話の伝達に関わるということが明らかになっている。このことから、話の内容のプラス、マイナスの印象が話の内容の変容に与える影響を調査した。また、先行研究の多くは噂を聞いたことがあるかどうかという点に着目しており、どのような方法で伝えられたか、ということに着目したものは少ない。このことから伝達方法が話の変容に与える影響を調査した。
調査のために、内容のプラスマイナス、伝達方法を変えた文章伝達の実験を行った。方法としては、筑波大学生の生活に対して有益か不利益な内容の文章を6テーマ12種類用意し、それらの文章に対して口頭または筆記での伝達を行ってもらい、その内容を記録した。また、前後の内容を比較することで、情報の変容を分析した。
本研究の実験から、内容のプラスマイナスや伝達方法と発生する変容の間に顕著な関連は見つからなかった。しかし、各テーマ別に見たところ、いくつかのテーマで独立変数である、内容のプラスマイナスや伝達方法の影響を受けていると考えられる変容が観測できた。このことから、話の属性や伝達方法の影響の強さは話のテーマに依存する可能性が示唆された。
今後の方向性としては、変容が発生しやすいと考えられるテーマとそうでなかったテーマの間にある差を明らかにし、その中でどの差異が変容に影響を与えているのかを明らかにすることで、本研究の目的であった、伝達の際に変容を発生させやすい要素を明らかにすることが可能であると考えられる。