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津波避難行動における情報探索の影響

永野 玄樹(2018年度卒)

日本において自然災害は避けることのできない脅威である。2011 年に発生した東日本大震災では死者・行方不明者併せて2万人以上の人命被害が生まれたが、犠牲者の死因の90%以上が津波による溺死であった。また、現在も東日本大震災と同規模の地震の発生が高確率で予想されており、地震対策・津波対策を考案することは重要な課題である。地震や津波に関する先行研究はそのメカニズムの解明を試みるものや被害調査を主題としたものが多く、津波避難行動については、避難に影響した要因を明らかにするにとどまっている。したがってそれらの要因がどのような避難行動につながったのかを明らかにした研究は少ない。また災害発生時の特徴として情報の多様性が挙げられるが、地震発生後に得られた様々な情報がどのように避難行動に影響したかを明らかにした研究もまた少ない。そこで本研究では、一般の被災者の視点から分析を行い地震発生から避難終了までの津波避難行動プロセスを情報探索行動に着目しながら明らかにすることを目的とした。加えて、津波避難行動パターンの類型化を行うこと及び類型化したプロセスやその過程で獲得した知見を基に今後の津波避難支援に関する対策について議論し、提案することを目指した。

以上の目的を達成するために、本研究ではWebサイト「NHK東日本大震災アーカイブス」内に掲載されている、被災者に対して行われた「震災当時の避難行動」についてのインタビュー内容24件を分析対象とした。また分析方法には、プロセス性のある事象における人間の行動について、予測や説明を可能とする理論の生成を試みるという分析特性を持った、質的分析法の一種である修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用した。

分析の結果、37個の概念及び8個の概念カテゴリーが生成された。それらを基に各概念間の関係を検証した結果、地震発生及び揺れの体感から津波避難行動終了までの一連の津波避難行動を構成する概念は「避難に対する意思決定」「計画性の高い避難」「計画性の低い避難」「避難行動終了後」の4グループに分類できることが分かった。また、主な津波避難行動プロセスとして、揺れの体感から津波の到来を予見し、避難計画の立案を経て避難を開始し状況に応じて計画の再立案を行うパターンや、過去の経験から過信をし、他人の呼びかけを聞いて初めて避難行動を開始するも、津波が接近したことによりとっさの判断で他人追従行動に移るパターンなどが得られた。これらの知見を基にした津波避難支援対策として、災害発生時において被災者に津波のイメージ及び危機意識を持たせる土台作りの施策や、避難開始後の行動を支援する対策よりも、被災者の避難開始のタイミングを早めさせるための対策が重要であると考察した。これを踏まえると、「災害に関する情報の表現方法を変更すること」のような対策が挙げられる。

以上が本研究の主な成果である。今後の課題としては、より密度の濃いデータを用いて分析することや、感情について分析を行うことが挙げられる。


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