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ライフログを用いた高齢者の生活振り返り支援

佐々木 麻衣(2019年度卒)

目的:高齢者の生活の振り返りが認知機能向上に効果があることが明らかになっているが、現時点で比較的一人で活動可能な高齢者に対して有効介護予防の手法は確立していない。また、生活情報収集にあたりスマートデバイスの活用が期待されており、歩数計や心拍計に代わる記録装置として高齢者がスマートフォンを用いる様子が近年報告されている。そこで本研究では、①高齢者自身がライフログを記録し、振り返る機会の支援・提供②自分のライフログを振り返ることを通して生活状態の維持・生活習慣の改善を促進するような手法の提案・検証の2つを研究目的とする。

方法:同じ交流活動団体所属者から参加者を募り、つくば市周辺に居住する高齢者 10 名(男女5名)を対象に7~11月の5か月間調査を行った。毎日デバイスを携行・運動や位置情報に関するデータを収集し、1日の終わりにライフログを振り返る流れを5ヶ月間取組んでもらった。これ加えて、1ヶ月毎にデータを抽出して生活情報レポートを作成・配布した。このレポートを読みながら 1 ヵ月の出来事を振り返り、過去の記録を見て感じたことや考えたことを記入するアンケートを全 5 回実施した。また、調査開始時と終了時に「生きがい感」を問うアンケート調査を行い、実験に伴う精神面への変化も計測した。

結果:得られた数値の変化を一人ずつパターン化したが、どの項目も生活状態の劇的な改善は見られなかった。一方で、ライフログを基に生活を振り返り、改善しようという動きはレポートに関するアンケートの記述から見られた。アンケートの設問中最も平均回答文字数が多かった設問は、調査による生活の変化の実感を記述するQ13であり、次いで1ヶ月の歩数を1日ずつ提示して気づいたことを記入するQ1という結果であった。調査前後に実施した生きがい感に関するアンケートでは、「自負心」「充実感」「達成意欲」全ての項目において平均獲得スコアの変化は維持か増加傾向が見られ、減少した項目は見られなかった。

考察/結論:劇的な数値の上昇・改善は検出されなかったが、調査に伴う生活の変化、1 日ごとの歩数、お出かけハイライトの3項目が特に生活の振り返りに役立った。生きがい感については、平均得点が11項目中11位「自分にしかできないと思うことがある」と8位「他人から認められ評価されたと思えることがある」の平均獲得スコアが大きく上昇した。これは、本研究の「記録を一定期間置いてからまとめて振り返る機会の提供」の部分が効果的だったのではないかと考える。実際に、月に1回配布されるレポートと自分の記録装置から取れたデータとをと照らし合わせてその日の出来事を想起する使い方をしている参加者が見られた。記録習慣がない者にとっては、定期的に振り返ることで、自負心や生活への張り合いといった精神的変化があったのではないか。本手法は高齢者の生活習慣の中に取り入れられるような振り返り支援方法であり、生活習慣改善の促進に効果的であることを示した。


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