スマートスピーカーを用いた高齢者の社会参加支援
石川 梢(2020年度卒)
目的:近年、高齢者の自立支援の重要性が高まっている。関連研究において、高齢者の外出支援や、家族との会話が心身の健康の維持に効果があることが明らかにされているが、現時点で在宅時間が長い高齢者や一人暮らし高齢者に対する効果的なアプローチが確立しているとは言えない。一方、高齢者の生活を遠方から見守るシステムにスマートデバイスが活用されている。そこで本研究では、①高齢者自身が生活の記録・振り返りを行うにあたって、スマートスピーカーの効果を検証する、②高齢者の社会参加にスマートスピーカーが与える影響を調査する、の2点を目的とした。
方法:同じ交流活動団体所属者から参加者を募り、茨城県内に居住する高齢者5名(男性3名、女性2名)を対象に10月中旬から11月中旬の1か月間調査を行なった。調査参加者の自宅にスマートスピーカーを設置し、その日の生活を振り返る質問に毎日答えてもらった。質問は、毎日の「外出、料理、掃除、十分な睡眠」についての4項目とした。これに加え、1 か月の調査終了時にデータを抽出して生活振り返りレポートを作成・配布した。このレポートを読みながら 1 か月の生活を振り返り、過去の記録を見て感じたことや考えたことを記入するアンケートを実施した。また、調査開始時と終了時に「主観的幸福感」を問うアンケート調査を行い、スマートスピーカーの使用に伴う精神面への変化も計測した。
結果:「毎日の生活を記録するから、掃除をしよう」のように、意識の変化が振り返りレポートに関するアンケートの記述から見られた。また、スマートスピーカーへの発話内容の分析からは、「挨拶」、「雑談」、「音楽」、「天気予報」、「ニュース」での活用が多く、高齢者の情報ニーズが明らかにされた。一方で、1か月後に得られたデータから、参加者に振り返りを行ってもらったが、どの項目も生活状態の大きな変化は見られなかった。主観的幸福感に関しては、17項目のうち、「去年と同じように元気である」などの5つの項目でスコアの上昇傾向が見られたが、スコアの変化は小さいものにとどまった。
結論:生活状態、主観的幸福感共に数値的な変化はなかったものの、スマートスピーカーという、参加者全員が初めて使用するデバイスでも、適切なサポートがあれば毎日の生活を記録し、振り返りを行うことは可能であることが確認された。また、今回の調査では毎日の生活の振り返りのみを必須作業としていたが、参加者それぞれのニーズに合わせて、スマートスピーカーの多様な活用がなされていた。本手法は高齢者の日常生活に取り入れることが十分可能な支援方法であり、高齢者の自立に向けたさらなる研究が期待できる。