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就職活動の情報化を目的としたタスクオントロジーの構築

松田 興大(2021年度卒)

毎年多くの大学生が就職活動に取り組む.平成31年の就職者の数は446,882人である.また2018年の新卒採用コストの一人当たりの平均は72.6万円である.このように就職活動は社会的,経済的なインパクトを持つため就職活動に関する研究成果は,社会・経済に影響を与えると考えられる.就職活動現象の研究には就職活動を客観的に捉える為の資源が必要であるが,就職活動現象を情報化し体系化する科学的な試みは確認できない.ここでいう情報化とは就職活動現象を表出化し,形式化して,概念として扱えるようにすることである.

そこで本研究では,就職活動に関する書籍や就職活動経験者に対するインタビューよりエントリーシート(以下ES)作成手順に関するデータを収集し,それを基にタスクオントロジーの構築を行い,就職活動を現象として情報化することを目指した.タスクオントロジーとは,就職活動で大学生が行うES作成という問題解決活動を対象とし,それを表現するための概念と,概念間の関係を規定するものである.

書籍からのデータ収集では,書籍本文の中の目的語と動詞の組を抽出した.具体的な就職活動現象が記述されていた16ページから計109個のデータが抽出された.インタビューによるデータ収集では内定を獲得した大学4年生8名及び大学院2年生2名で構成される被験者計10名に対して,それぞれES作成手順を尋ねるオンラインでの1時間のマニュアル作成実験を行った.その結果,計 193 個の目的語と動詞からなるデータが得られた.その後,収集したデータを利用してタスクオントロジーを構築した.タスクオントロジーの構築の手法としてActivity-First Method(以下 AFM)を利用した.AFMはマニュアルからオントロジーを構築するように設計されているため,収集したデータとの親和性がある.

本研究で実施したスクオントロジーの構築を通して,就職活動という現象をタスクオントロジーを利用して基本概念とロール概念で情報化することができるということを示した.ロール概念とは,コンテキストや他の概念に依存している概念である.タスクオントロジーには,就活生の行為,就活において利用される用語,実世界に存在するオブジェクトなどが含まれる.例えば書籍で「自分の強みをアピールする」と表現されていたものはタスクオントロジーを利用して「自分の強みというロールをもつ出来事を文字という表現形態で人工物に書く」と変換できるようになった.出来事や文字といった基本概念で表示することで,コンテキストを知らない新就活生のタスク了解性が高まることが期待できる.

今後の方向性として,今回手作業で収集した就職活動タスクを自動収集するシステムを作成することや,対話的コミュニケーションにより就職活動における就活生の行動を補助するエージェントシステムの開発,タスクオントロジーからタスクを生成し就活生に提示する提示する就職活動支援手法の検討が考えられる.


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