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事例検索を用いたレファレンス協同データベースへの執筆支援

鈴木 晟子(2021年度卒)

レファレンスサービスは,現代の図書館サービスの根幹と言える。全国の図書館で行われたレファレンスサービスの記録や調べ方を,情報源として活用しようという仕組みが,レファレンス協同データベース(通称「レファ協DB」)である。その目的は,「公共図書館(中略)等におけるレファレンス事例(中略)を蓄積し,並びにデータをインターネットを通じて提供することにより,図書館等におけるレファレンスサービス及び一般利用者の調査研究活動を支援すること」である。しかし,2021年11月現在,登録されているすべての事例263,191 件のうち,インターネット全体に公開される「一般公開」が139,582 件,レファ協DB登録館のみが参照できる「参加館公開」が14,862件,事例登録館だけが参照できる「自館のみ参照」が108,747 件であり,登録事例のうち,半数近くが一般に公開されていない。先行研究や所属館へのアンケート調査から,レファレンス事例の核である回答プロセスの記述方法には基準がなく,一般公開する判断方法や自信がないことが示唆されている。

そこで本研究では,レファ協DBの知識を活用して,「何をどの順序で書いたらいいかわからない状態」から抜け出すことで,レファレンス事例執筆時の自己肯定感を上げることを目的とした。また目的を達成するために,既存事例を参考にすることで回答プロセスの書き方が分かり,作成物に自信が持てるという仮説を立てた。その検証のため,チャットボットにキーワードを入力すると,質問にキーワードを含む類似事例の回答プロセスをレファ協DBから検索し提示するシステムを構築した。

作成したシステム評価のために『知識情報演習Ⅱ』の履修者10名を対象に評価実験を行った。コロナウイルス感染対策のため,実験は完全にオンラインで実施した。まず,こちらが用意した質問に対して実際に模擬レファレンスを体験してもらった。模擬レファレンスには検索エンジンを使用してもらい,その様子を画面共有という形で観察した。その後,質問に対する回答・回答プロセスを,自力で作成してもらった。次に,別の質問を提示し,同じように調べてもらった。質問に対する回答及び回答プロセスを,今度は提案システムを使用して作成してもらった。これら二つの実験それぞれと,実験終了後に質問紙調査で評価をしてもらった。

実験の結果,提案システムを利用することで,回答プロセスの書き方への理解が高まり,書いたものに対する自信も高くなることが分かった。一方で,システムの使いやすさに関しては意見が分かれた。以上の結果から,回答プロセス作成時に既存事例の検索機能を導入することで,「回答プロセスの書き方が分かる」「書いた回答プロセスに対して自信が持てる」効果を高められることが分かった。今後の方向性として、既存事例を色分けするなど提示方法への改善に関する研究が考えられる。


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