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高齢者主体の QOL 表出発話を引き出す問いかけ手法の比較

工藤 拓海(2023年度卒)

高齢化の進行に伴い、高齢者の社会からの孤立は深刻な課題となっている。中でも、単身で生活している高齢者の孤独死の問題が指摘されており、背景には健康状態や生活状態が家族や周囲に伝わりづらいことがあげられる。これらの課題解決に向けて、高齢者の QOL(Quality of life)に関する研究が多く行われている。先行研究では家族と高齢者のコミュニケーションにおいて、聞き手が高齢者の発話から QOL を推定できる発話(以下:QOL 表出発話)の生成をサポートすることで高齢者の QOL が家族に伝わることがわかった。しかし、発話の中で述べられた行動や状態は、家族主体のものが多く、高齢者主体の発話は極めて少ない結果となった。そこで、本研究では自然な対話を可能にする ChatGPT を搭載したアプリを構築し、スマートスピーカーを用いて高齢者主体の発話を増やすことで高齢者の QOL 表出発話を引き出すことができるのか調査した。また、将来的に実用化を目指すにあたり、使用する質問群を個々の利用者に合わせることが必要であると考えた。そのため、「個人差に適応するため得点が高い質問群を残すよう考慮したスコアリング手法(以下:提案手法)」を考案し QOL 表出発話を効率的に引き出すことができるかを調査した。

本研究では高齢者の自宅にスマートスピーカーを設置し、実験参加者は基本的に毎日デバイスを通して実験実施者が作成した 5 つの質問群(食事、運動、買い物、趣味、人との会話)から選出された 3 つの質問群の問いかけに返答する形で日記を記録する。会話の切り出しとしてスマートスピーカーが問いかけを行い、参加者が回答する。その発話を基に ChatGPT がまた問いかけを行うような仕組みを構築した。その後、実験実施者は収集した会話データをスコアリングしアルゴリズムに沿って翌日に使用する 3 つの質問群を決定する。使用するアルゴリズムは「提案手法」、「無作為抽出」、「順序固定」の3種類であり、それぞれの方法を 5 回ごとにローテーションした。本実験は、茨城県に居住している高齢者 4 名(男性 2 名、女性 2 名)を調査対象とし、3 か月間実験を行った。

実験の結果、すべての質問群において QOL 表出発話を引き出すことができた。また、問いかけ手法の比較では、「提案手法」が「順序固定」に比べて、QOL 情報を効率的に聞き出せる効果があることが明らかになった。しかし、「提案手法」と「無作為抽出」の間には質問群の選択方法の違いが及ぼす効果は観測されなかった。これらより、質問群の順序に変化を与えることが良いことがわかったが、その変化の与え方において提案手法が良いのかランダム化で十分なのかについては、今回の研究からは明らかにできなかった。本研究では ChatGPT を活用することで従来は実現が困難であった対話システムによる QOL 表出発話の導出が可能であることが検証できた。今後は、ChatGPT のトークン数を増やすことやタイムアウト時間を調整し、人間により近い対話を実現することで高齢者の QOL 表出度合いに与える影響を確認したい。


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