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スマートフォンでの画面遷移形式がユーザの記事閲覧行動に与える影響

鬼塚 隆輝(2023年度卒)

スマートフォンでの文章閲覧の増加にもかかわらず、活字離れの問題は深刻化している。最近の調査結果によると、テキスト系サイトの平均使用時間が増加し、多くの人々がスマートフォンを主なデバイスとしてニュースを閲覧している。また、読書量を増やしたいと考える人々が多いことも明らかになり、特にニュースアプリへの関心が高まっている。次に、先行研究の知見として画面遷移形式が、理解度や戦略的バックトラッキング、作業負荷に影響を及ぼすことが示されており、これらはデジタル環境での文章閲覧の理解に不可欠であろう。本研究では、特定の文章をすべて読むことになる実験設計を先行研究の限界と捉え、UIデザインソフトウェア Figma を使用して現実に即した環境を再現した。これにより、文章の閲覧量を計測する「スクロール深度」を導入することができ、スマートフォンでより深く文章を読むための環境(UI/UX)を調査する。

本研究では、被験者内計画で、筑波大学の学生 20 人を対象としたユーザ実験を行った。被験者はまず、基本情報(性別、年齢、所属)とスマートフォンの平均使用時間、実験題材で用いた10のトピックの選好度に関する質問紙に回答した。続いて、実験の場面設定を含んだ課題教示書を読んだ後、チュートリアルを通して実験環境に慣れる機会を得た。その後、異なる画面遷移形式(スクロール、ページング)を使用して10分間、実験環境内の記事を自由に閲覧し、理解度と作業負荷に関する質問紙に回答した。この手順は 2 度繰り返され、最後に、どちらの形式が好ましいかを回答し、その理由を自由記述する質問紙に取り組んだ。先行研究では、感情的な要素が少なく参加者への影響も少ないことから科学ニュースのテキストが用いられており、本研究でも、実験題材として日本科学技術振興機構が運営するサイエンスポータル内の文章を用いることにした。また、本実験環境の特徴として、画面遷移方向の統一のため、左右方向への移動が一般的であるページング形式にて、上下方向の移動を採用している。

結果として、いずれの従属変数も有意水準 5%の統計的仮説検定において有意な差は見られなかった。そこで、自由記述の回答内容や特定の従属変数との相関、もしくは画面遷移形式による有意差を考慮して、操作への「慣れ」や題材への「興味」、文章の「文字数」「難易度」を追加の独立変数として交互作用の検討を行ったが、いずれも統計的に有意ではなかった。ただ、サイエンスポータルを題材とした実験設計は適切であると追加分析から示唆される。また、「慣れ」の概念を正確に捉え、それが実験に影響を及ぼさないことを確認できたことは知見の一つである。自由記述回答と質問紙内の「慣れ」に対する評価から、ページング形式への不慣れが示唆されたが、交互作用効果は認められなかったためである。今後の方向性として、実験環境に問題はなかったと考えられるため、各質問紙の質問内容やサンプルサイズの再検討を行い、本研究と同様の環境で仮説の再検証を行なっていくことにあると考える。


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