文献レビュー
概要
研究の新規性や目的設定、方法論や結果の示し方、そして考察における比較まで、先行研究や関連研究のレビューは研究において非常に重要なスキルです。
出版物のレベル
まずは研究のレビュー対象となる出版物の種別を理解しましょう。
本(著書) | 雑誌(学術誌) | 辞典・事典 | |
---|---|---|---|
専門レベル | 研究書 | 原著論文 | (なし) |
入門レベル | 入門書(含 教科書)・概説書 | 調査(レビュー)論文 | 専門辞典・事典 |
一般レベル | 一般書・実用書 | エッセイ | 一般辞書 |
出典:石黒 圭著「論文・レポートの基本」2012年 日本実業出版社(p.37) 抜粋・一部改変
学習の順番
- みなさんの前提知識によりますが、いきなり専門レベルの原著論文を読むのは得策ではありません。
- まずは一般レベル・入門レベルの資料から基礎知識を得て、その後に専門レベルの資料をレビューしましょう。
- 勉強会や輪読会などは入門レベルの資料を協力して効率よく学習する仕組みです。
知識と経験は別物です。
- 自分が何かの活動をを長くしていると、その領域の基礎知識を有していると勘違いしてしまいがちです。
- しかし研究を行う上では、言葉や概念の定義を正確に理解する必要がありますので、必ず一般レベル、入門レベルの資料から学習を開始しましょう。経験のある領域ならば、学習に時間がかかることはないはずです。
文献レビュー数の目安
文献レビューとは、主に「原著論文」に対して行うものです。つまりそれまでに一般レベル・入門レベルの学習がある程度完了している前提です。研究室での目安は以下の通りです。
- 卒業研究:20本以上
- 修士論文:50本以上
- 博士論文:100本以上
これらすべてがみなさんの学位論文に含まれる訳ではありませんが、研究テーマおよびその関連領域に関する知識を有することを示すためには、上記に記載した量の原著論文を読むことが必要です。
原著論文の種別
文献レビューの主対象となる原著論文にもいくつかの種別があり、これを正しく理解することが大切です。なるべくお勧め度の高い論文をレビューしましょう。 分野に大きく依存します。
お勧め度 | 種別 | 査読なし | 査読あり |
---|---|---|---|
査読付き国際論文誌論文(英語) 査読付き国際会議フルペーパー(英語) |
○ | ||
査読付き論文誌論文(日本語) 査読付き国際会議ショートペーパー(英語) |
○ | ||
査読付き国際会議ワークショップ論文(英語) 紀要(日本語) |
○ | ||
国内研究会論文(日本語) (卒業論文・修士論文) |
○ |
- 「査読」とは専門家が論文の内容の正しさや分野への貢献度を判断するシステムです。したがって査読を通過した論文は一般的に信頼性が高いと言えます(例外はあります)。
- 見つけた論文の種別が判断できない場合は、指導教員に確認しましょう。
論文の探し方
- 文献の種別、論文の種別をしっかりと理解しましょう
- 英語論文ならGoogle Scholar、日本語論文ならCiNiiを出発点としましょう。
- 上手く見つけられないときは、以下を試してみましょう
- 使用したキーワードの類義語や言い換えを試す
- 見つけた論文で使われている用語を試す
- 見つけた論文が引用している論文にあたる
- Connected Papersなどのツールを使って、見つけた論文を引用している論文にあたる(ただし英語のみ)
- イメージしている論文や試したキーワードなど示したうえで、メンバーや指導教員に相談する
- たくさんマッチしすぎる場合は、以下の基準で優先順位をつけましょう
- 引用文献回数の多い論文(確認方法は自分で調べましょう)
- お勧め度の高い種別の論文
- 比較的新しい論文(過去5年以内など)
論文の読み方
研究の段階に合わせて1つの論文から複数の情報を読み取ります。したがってその時その時の目的にあった情報を「能動的に」読み取ることが、文献レビューを効率的におこなうコツです。最初から最後まで「とりあえず読む」作業ではありません。読み取る情報の例は以下の通りです。
- 序論の3戦略
- 重要性:何故この研究は重要なのか
- 新規性:主な先行研究とその限界、あるいは新しい研究機会は何か
- 目的:この研究の具体的な目的(=リサーチクエスチョンや仮説)は何か
- 研究方法
- 研究目的を達成するために、どのような研究手法や手順を踏んでいるのか
- 問題を解決するために提案された手法は何か
- 主な結果と考察
- 調査・実験結果として得られた主な知見は何か
- それは技術開発や社会にどういった意味を持つのか
- キーワード
- 論文に出てきた重要なキーワードは何か、その定義は何か
自分の3戦略
- みなさんの研究テーマを決める初期段階では、「論文の読み方」に沿って文献レビューを行った後に、「自分の3戦略」を考える練習を繰り返し行います。
- 具体的にはレビューした論文をお手本とした「後続研究」や「発展研究」を自分で行うとしたらどのような序論の3戦略になるか、を考案する作業です。
- これはとても難しい作業ですが、繰り返し挑戦することでみなさんのリサーチクエスチョンを立てる土台と力が構築されていきます
文献レビューノート
文献レビューの終了条件は、読むことではなく文献レビューノートの作成です。詳細はこちらを参照してください。
英語論文を読まなくてはだめですか・・・?
結論から申し上げますと「読んだ方が良い」です。主な理由は二つあります。
- 情報系分野における上質な論文の多くは英語論文である
- 機械翻訳技術の発展により英語論文を読む障壁が低くなっている
DeepLなどの翻訳ツールを使って英語論文を読む方法はインターネットにあふれていますので、「DeepL 英語論文」などで検索してみましょう。